公共性が低い橋と小道に日本政府の援助金が

 再び発電所の貯水タンクに戻ります。タンクに大きな岩で壊された当時、「こりゃあ、ひどい損害だ。こんな状態だったら、壊されたタンクを取り壊し、新しくタンクを造り直さねばならない。それにはセメント100袋、鉄筋2トン半の費用、およそ30万ルピーが確実にかかる。この費用をどこからどうする?」

 

 

必要なところに援助は来ず

 と発電プロジェクトの現場責任者だったサイフラーさんや村人たちが言い合っていました。何人かは、私に「バーバ、あんたの国から援助金を持ってきてくれよ」と簡単に言うので、自分の意志だといいけど、他人からせびられることが大嫌いな私は、「何を言ってる。この発電所の運営は地元で運営していくという取り決めで日本政府から援助してもらったんだよ。地元のみんなで力を合わせてどうにかするのが道じゃないの」といちいち怒っていました。

 

 地元の人たちも、夜、電気の代わりにろうそくをつけるにも、1本10ルピーで2時間ぐらいしかもたない。しかも暗い。懐中電灯を買っても乾電池がバカにならないということで、最近は電気の必要性をわかるようになってきています。

 

 ついに、援助を待っていてもいつになるかわからないので、できることから始めようと、天気が良い日に、村々からボランティアで男衆が集まり(発電委員会が、作業に出ない者は代わりに500ルピー払う取り決めをした)、まず、まだぐらつく崖の岩や石を気をつけながら壊して取り除き、その後にタンクを覆う岩も取り除きました。

 

 すると、フィルターの役目もしていた小タンクは完全に壊れているけれど、確実にひびが入って使い物にならないと思われていた貯水タンクは上部は壊れているものの下部は大丈夫だということが判明。壊れた水路の石壁も造り上げ、後は鉄骨を入れたセメント作業を残すのみという、カラーシャにしては異例のスピードで作業が進められました。ただ、今後、セメントと鉄筋の資金をどう集めるかが課題です。

 

谷の住民も反対しているプロジェクト

 そんな中、セメントと鉄筋の資金、30万ルピーのことでみんなで悩んでいる時に、血管と脳みそが沸騰しそうな話しをききました。ルンブール谷の下流に住むカラーシャ、ワジールZがマネージャーを勤めるアユーンの機関「アユーン&ヴァレー開発プログラム」が、日本政府の草の根援助に申請したプロジェクトが1月に認可されたというのです。

 

 昨年、まだ日本にいた私に地元の人から電話があって、「ワジールZが私利私欲のために日本政府に申請したプロジェクトが通ろうとしている。どうにかして欲しい」と言われました。

 

 「私は日本人だけど、だからと言って日本政府にどうとか言うことはできないよ。第一、東京から遠いところにいる私は、外務省のどこにどうやって話をしに行くのかすらわからないもの」と返事をしましたが、ルンブールに戻ってから、イスラマバードの日本大使館の草の根援助担当の方と電話で話をすることができました。そのときにプロジェクトの内容が「ルンブール谷の下流の橋と道のプロジェクト」と知り、一瞬喜びました。

 

 ルンブール谷のジープ道路は非常に危ない箇所が数カ所あって、また1999年に造られた一カ所だけある橋も両脇のガードフェンスもなくなり、ただ板を敷いただけのがたがたなものなので、チトラールの町に出る際はもういつもハラハラドキドキ、「どうぞ事故が起きないように」と祈りながらボロジープに乗っているので、道路の改修はぜひとも必要と思っていたからです。

 

 ところが話をきくうちに、そのプロジェクトの橋や道は、谷の人が日頃使うジープ道路と橋のことではなく、そのマネージャーの家に通じる橋と親戚の村への道を建設するためということがわかり驚きました。もちろんマネージャーの家だけでなく、近所に数世帯の家があるのでまったく必要でないとは言えませんが、優先順位は後になると思います。でも2月に日本政府がすでに資金も渡したということなら、今さら何を言っても始まらないので黙っていました。

 

 しかし最近、その小さい橋の建設の資金が270万ルピー、わき道建設の資金が60万ルピー(注1)ということをきき、びっくり驚いているところです。その建設予定の橋は、それまであった橋が2010年の鉄砲水で流され、新しく造るために別のNGOの人間が援助を仰いだ額は10万ルピーでした。その額で造れる橋なのです。今は物価が上がっているからと、高く見積もっても30万ルピーでしょう。別の村に通じるわき道を造るというのも、その村の住民から反対されて、結局そこの道は造れないことになり、申請にない道を造ることになっています。

 

 そんな300万ルピー以上の予算があれば、町の病院に行くための病人や役所や買物の用事で行く地元の人々を乗せて走る乗り合いジープが行き来するジープ道路の危険な箇所を直せるはずなのに、ついでに、200世帯に電気を供給している発電所のタンクも直せただろうにと思うと残念でたまりません。

 

 「もちろん、橋や歩道には2、3割の費用をかけるだけで、後はワジールZが自分の懐にという魂胆だ」と村人は言っています。ちなみにこの彼は、5月の選挙に、ある党から出る申請もしています(承認されるかどうかは知りませんが)(注2)つまり、日本政府の草の根援助金が彼の選挙活動資金の一部になるということです。

  

 こんなにおかしい話があるでしょうか?この件についてはもっと言いたいことがありますが、考えるだけで血圧が上がるので、このくらいで止めておきます。

 

(注1)この額は地元の人々から聞いたものです。確証できないので、今、大使館の担当の方に問い合わせていますが、まだ返事はいただいていません。

(注2)結局、党から認可されなかったそうです。

 

 

 

 日本に戻ったら、危ないジープ道路のデジカメ動画を加えます。パキスタンではアップできませんので。