ああ、セキュリティ

2015年3月20日

 2009年頃、パキスタン国内で台頭して来た武装集団、テリーキー・タリバン・パキスタン通称TTPがスワットを占拠して、住民全員が避難して国内難民となりました。アメリカの軍事支援のもと、パキスタン政府軍がTTP掃討作戦を行われ、その後スワットから武装集団を追い出すことができ、住民も戻っている。


 しかしTTPはいなくなったわけではない。その間、「女性にも教育を」と声を上げていた少女で、スワットに住んでいたマララが下校途中でTTPの一員から狙撃されて、そのまま手術と治療のためにイギリスに運ばれた。この事件がきっかけで世界に注目され、彼女は昨年ノーベル平和賞を受賞している。


 パキスタンの治安は悪くなる一方だ。(チトラール地方はそうではない。)TTPが台頭してから、カイバル・パシュトゥン・クワ州の北部のスワット、ディール、チトラール地方で8000人の臨時警官を雇用した。それまでルンブール谷には警察の派出所もなく、1人の警官もいなかったのだが(ルンブール出身のカラーシャ警官はいたが、谷の外で任務についていた)その時4人の臨時警官が採用された。AKIKOの家のスタッフだったJSもそのうちの1人である。さらに、うちの谷にも駐在所が設けられて、現在20人ほど、アユーンから派遣された正規の警官がいる。


 警官たちが、実際何をしているかと言えば、まあ、外部から来た人間のコントロールが一応の任務らしいが、旅行者が来なくなった(来れなくなった)現状では、ほとんど何もしていない。駐在所の長(ムスリム)はカラーシャの焼酎をせびったり安く買ったりして毎日酒浸りという話をきいたが、都市部のテロ活動が増すにつれて、警官の給料は上がっていっているので、飲んだくれの長は学校の教員の倍もの給料をもらっているという。


 その後も、カラーシャの中で(女性を含む)警官が次々と採用されている。女性警官に関しては、チトラール地方のムスリムの女性は警官になり手がないので、顔を隠さず、よその男性とも話ができるカラーシャの女性が採用されるということらしい。今ルンブール谷には6人の女性警官や警備官がいる。大半が谷の外で勤務している。


 私は地元民と同等の扱いのIDカードを持っているので、護衛は不要であると訴えているけど、どうしても顔が外国人だから危ないということなのか、チトラール警察長が勝手に4人の警官を私の護衛につけている。といっても昼間は朝10時くらいから昼の2時ごろまで向こうの村のカラーシャ女性警官1人がやって来て、うちの近所の家に居座っていて、私がうちの村から出てよその村を訪ねたりするときに同行するだけのこと。あとの3人はうちの村の者で、そのうちの1人が夜間私の部屋の真下で銃を枕元に置いて寝ているが、みんな警官の制服を来てるわけではないし、大家族の一員みたいなものなので特別に護衛されて感じはしないから、いてもいなくてもいいという感じである。


 しかし4人分の給料はどこから来るんだろうと思ってしまう。うち3人は臨時警官なので正規警官ほどではないにしても、教員の給料ぐらいはもらっている。JSは私のとこのスタッフ時代は半分ボランティアで給料も少なく(それでも当時は給料取りがあまりいなかったので、もらえるだけましだったと思う)、いつもきゅうきゅうだったが、臨時警官になってから、私の仕事もなくなり暇ができ、家を増築するからと山林の木を伐採して、その半分またはそれ以上を横流しして、給料以外にも金儲けをして豊かになり、現在はトタン屋根の木造のなかなかモダンな大きな部屋を2部屋建てている。

 

 村人に金が入りまわっていくのは悪くはないとは思うが、それなら、おととし夏に土石流で跡方もなく流された小学校を急いで建てて、政府からの教員、たった2名を(私たちの方からヤシールを特別教員として小学校に派遣しているので実際は3名)あと数名増やすなど、もっと実になる予算の使い方をしたらいいのにと思わざるを得ない。


 その上に、谷にはパキスタン陸軍の兵士が4〜50人駐留している。兵士なのでさぞかし活動的だろうと思うと大違い。普段は即席兵舎の中で何をしているのか、外には出てこない。彼らは都市部から派遣された人間だからか、山の生活を知らない。ストーブに薪を焚く方法もわからず、火が弱まるとすぐに薪の上に灯油をかけるという。わざわざ遠い平原部から車で持ってきた貴重な灯油をじゃんじゃん使わなくとも、火付け用の油が多い松の枝木もここにはたくさんあるのに。


 兵士たちはこの谷はパキスタンに属しているので、山林の木、畑も政府のものだ。兵隊はお前たちのために駐屯してやってるのだから、すべてに自分たちを優先しろと言うのだ。


 我々の発電所の水路が決壊したり、水路に砂がたまってで発電ができなくなると、大騒ぎをして早く修理せよと、オペレーターや村の男たちを責め立てる。いい体格の兵士たちは少したりとも手伝おうとせず、命令するばかりだ。もちろん電気代などは払わない。(駐屯経費に電気代も含まれているはず)この発電所はパキスタン政府のものでなく、日本の草の根援助で、えらい思いをして建てたんだぞと言いたいところだが、私は極力目立たないようにしているので言う機会はないが。


 先日はこんなことがあった。2年前サイフラーさんを中心とした上流の中腹の4〜5家族の耕作地のための水路が土砂崩れで決壊した。このため耕作地の果物の樹々が枯れてきたので、決壊した水路をつなぐために、サイフラーさんがなけなしの金、3、4万ルピーをはたいて太い水管を設置した。サイフラーさんのゲストハウスはパキスタンの治安が悪いために旅行者がめったに来なくなったが、5月の春祭りのときだけはツアー客がくる。そのときの売上げ金で水管を買ったという。


 その水管を兵士たちが自分たちの兵舎に水を引くために、聞きもしないで持っていったという。あれはうちらのものだと言いにいくと、「あれはきっと政府が設置したものだろうから、俺たちのものでもある」と言う。「政府のではない。個人のものだ」と言っても、「お前らは嘘をついてる、あんな水管を個人が買うわけがない」とつっぱり、怒り、取りつく島がなかったという。陸軍の上の方に訴えると言ってようやく水管を取り返したらしい。


 兵士たちが国境線で一生懸命がんばっているのなら、地元の人たちもありがたいと思うだろうが、頻繁に運ばれてくる兵糧で、食っちゃ寝して、地元のもの(果物、作物も)を平気で失敬し、いばっている兵士たちに対しては迷惑ばかりで、出て行ってほしいというのが本音のようだ。