義兄の葬式に想う

 先日、ブログアップしたばかりだが、また急なEメールの用事で8月31日にチトラールに行かねばならなく、そのつもりでいたが、その前日に義兄が逝去してしまった。

 義兄はこの夏、肺が悪くなり寝付くようになった。そのうち手足がむくみ水が溜まってロボットの足のようになった。2度チトラールの病院で診てもらい、一度のときは薬が合ったらしく、外にも出ていて回復したかに見えたが、またしだいに悪くなって2度目の病院から戻っても回復せず寝たっきりの状態になった。痰がつかえて吐き出すこともできないほど弱ってはいたが、頭ははっきりしていてゼーゼー言いながらも見舞客と話をしていた。食事も少しながらも取っていたので、このまましばらくはもってくれるだろうとほとんどの人が思っていた。

 

 義兄は長い間カラチで働いていたこともあり、「ペシャワリ」と呼ばれていた。カラーシャたちからすれば自分たちの谷を越えた向こうはすべてペシャワールであって、カラチでもイスラマバードでも、さらに日本ですらペシャワールなのだ。よくお年寄りから「ペシャワールからいつ戻ってきたんだい」と聞かれたりするが、私は「ペシャワールにいたんじゃないよ。日本に帰ってたんだよ」と返事をするが、相手はハアと意味不明の顔をしたり、「日本もペシャワールも同じだよ」と言うたりする。

 

 ペシャワーリ義兄は独身だった。叔父たちが彼に嫁さんをアレンジしようとすると、「彼女はバーバ(兄妹、従兄妹)にあたる。彼女はチュ(娘、姪)にあたる」と極力否定し、結局結婚せずに終わった。人口4000人弱ほどのカラーシャは、ムスリムのように従兄妹同士では結婚しない。正確には父方7世代、母方5世代離れていなければ結婚できないことになっているが、そんなことをいってると義兄のように結婚できなくなるので、近年は緩くはなっている。

 

 義兄は70万ルピー貯金していた。本来は弟2人(ジャマットを含む)が相続するのだが、弟2人は以前何か土地の問題でもめてからずっと仲が悪く、口もきかない関係だったので受け取りにくかったのだろう、「1ルピーももらわない」と言い放ったので、普通は親戚や村人が出し合うところを、ほとんど義兄の貯金で葬式費用が賄われた。

 

 牛5頭、山羊30頭、チーズ200キロ、小麦20俵。カラーシャの葬式のたびに、費用を少し削るよう、私は誰かれとなく訴えてはいるが、「ダストゥール(伝統習慣)だから」となかなか削れらない。それどころか、今は車のアクセスが便利になっているので他の谷からの弔い客が多くなり、以前より費用をかけているように思える。4日間の葬式の後はどの家庭にも、食べきれず古くなった葬式のタシーリ(カラーシャの平たいパン)が山となって残り、腐ったカーイ(肉汁に小麦粉を混ぜたもの)が家の外に捨てられ蝿がたかっている。

 

 ジャマットたちは義兄の貯金の1割でも2割でもいいから、家族のためにとっておけばよかったのにと悔やまれる。現に、今朝ジャマットが一緒に育った従兄弟の赤ん坊が葬式の間も入院していて、いったん退院したがまた悪くなりチトラールに連れていかれた。従兄弟は安定した現金収入がなく(今は村の9割方、家族に給料取りがいるか、ベナジール基金支援金を毎月受け取っているか、あるいはその両方をもらっているのに、彼は何もない)、車代も事欠く状態だ。赤ん坊には両親が付き添うので、治療費だけでなく食事代、父親の宿代など、チトラールに滞在するとお金がかかる。あっという間に数千ルピーがなくなってしまう。

 

 

 とこういった矛盾を考えると、またまた気分が落ち込んでしまう。

 

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コメント: 2
  • #1

    ogura akiko (火曜日, 06 9月 2016 21:54)

    日本も異常気象の影響か痛めつけられています。日本の南西諸島の辺りで台風が発生して襲ってきます。先日の台風は西から急にターンして九州を東から襲いました。北海道や東北も同じ地域が豪雨で冠水して寝ている老人たちが亡くなったり家を失っています。
     災害が多くて昔バングラデッシュが大洪水で多くの人が毎年亡くなっていたのを思いだしました。今はニュースで聞かないけれど治水が成功したのでしょうか?ヨーロッパでは火山国だけが地震があり災害が少ない、したがって家を失わないで資産として保全され買い替えも容易でそれが庶民の地力になります。
    日本では災害復興に力を取られ明らかにじり貧になってきました。巨大な負債ものしかかり
    気分が塞ぎます。その上、原発再稼働、政治家の神経と脳の機能を疑います。
     あっこさんが無事に帰ってささやかな宴が楽しみ・・。
    首を長くして待ってますよ。

  • #2

    わだ晶子 (金曜日, 16 9月 2016 14:12)

    トマトさん、コメントありがと。来月一時帰国のつもりでいます。日本も問題だらけのようで喜んで帰るちゅう気持ちにはなりませんが、新鮮な魚と野菜のツマミで一杯やるのは、こちらではできないこと。まだ飲み会の楽しみが残っていることにお互い感謝しないとね。