レラさんの祈りの儀式

 佐賀に居ります。猛暑の中、ブログを更新することすら放ったらかしになっていました。遅ればせながら、6月の北海道行きの報告をばさせてもらいます。あ~、今日も暑いよ~。

 14年前にバラングル村を訪れられた際に援助について語り合い、その翌年の東京での写真展に北海道から来ていただいた後は、時々メールのやり取りをしていた札幌の奥矢さんから、「アイヌ活動家でシャーマンでいらっしゃるアシリ・レラさんの祈りの儀礼に参加しませんか?」とのお誘いを受けた。

 

 北海道は、大昔に楽器業界紙の取材で札幌に一泊とんぼ返りしただけで、ほとんど未知なるところである。せっかく声をかけてもらったし、自分でわざわざ行く機会は人生残り少なくなって来た身としては今後もうないかも知れんと、一大決心して行くことにした。

 

 前もって奥矢さんからアシリ・レラさんの写真集をルンブール谷に郵送してもらっていたので、レラさんのイメージは「来る人拒まず、人を惹きつける肝っ玉かあさんのような方」と掴んでいたが、その通りだった。

 レラさんは毎月1日と15日に祈りの儀礼を行っていらっしゃる。6月15日の儀礼に参加できるよう前日の14日に福岡空港からLCCのピーチ航空で新千歳空港に飛んだ。前割だったので航空券は一万円以下だった。

 

 迎えに来てもらった奥矢さんの車で2時間ほど、午後4時過ぎにアシリ・レラさんの住む平取町二風谷に到着。アシリ・レラとはアイヌ語で新しい風と言う意味らしく、日本名は山道康子さんとおっしゃる。今回はレラさんの住居に隣接した、祈りや儀礼を行う茅葺のアイヌ伝統家屋チセに泊めてもらうことなっていたが、「チセには電気がないから、今のうちにチセに布団をひいときなさい」と言われて、ひとまずチセに入る。

 天井だけでなく壁も茅葺で、部屋の真ん中に厚い木張りの囲炉裏がある。柳などの小枝を削って作った、神社のお祓いのビラビラ紙?に似た、柳などの小枝で作ったイナオと呼ばれるものが、窓脇や壁にたくさん吊り下げてあり独特な雰囲気を醸し出している。奥には儀礼用と思われる道具が置いてある。入り口付近には何層もの布団が積まれていて、それがつまりレラさんのもとに集まり宿を借りる人々がいかに多いかを表している。私たちの他にも埼玉から来た、アフリカ・マリの太鼓を叩き、トマト農園で働きながら長期滞在している青年も宿泊していた。

 

 夕方からレラさんはアイヌの酋長的存在だった方が亡くなりお通夜に出かけられたので、レラさん宅で夕食をいただいた後は近くの「びらとり温泉ゆから」で温まり、チセでマリ太鼓の青年と奥矢さんと3人、囲炉裏の角に置いたロウソクの灯火で、世界的に急激に進む生活環境変化や無農薬農法などについて語り合う。その夜と翌朝の室温は6度だった。さすが北海道。

 

 翌日、湧き水を引いた水道で顔を洗い、山に続く小道を少し歩いた後、儀礼の準備をするレラさんとマギさんの手伝いをさせてもらう。奥矢さんはチセの掃除と囲炉裏の四隅に塩を盛る。ゆで卵作りも任されていた。私はもっと単純な、用意ができたお供え物をチセに運ぶ役。そうこうするうちに、儀礼に参加される方々が札幌から、東京から、台湾から到着する。

 

 昼前に儀礼が始まった。入口から見て囲炉裏の奥の壁上方が神(カムイ)が宿る場所らしい。カラーシャの家庭の女神であるジェシタックが宿るところと同じだ。その場所と囲炉裏の間に参加者の男性たちが向かい合って座る。上座が歳の若い男性で囲炉裏の近くにつれ年配となる。寒い環境だから年配者に囲炉裏に近いところに座ってもらうのだろうか。女性たちは囲炉裏傍に逆に年配者から順に座る。

 

 神座に向かって左側の囲炉裏の脇に座ったレラさんが、漆の器に注がれたお神酒を、装飾が施された長いヘラ(イクパスイ)で祭壇に向けて神やご先祖様に捧げた後に、男性たちが同じ動作で続き、器の酒を口にする。囲炉裏の周りの女性たちも同じように続く。

この儀礼を参加者が行なっている時に、レラさんは参加者が夫々に書いた氏名、生年月日、住所、親の氏名の紙を手に取り、それらを読み上げる。この時呼ばれた本人はスマホかカメラで撮影の準備をしなくてはならない。そしてレラさんが本人の紙にイナオ、タバコ1本を包んで囲炉裏の火に投げ込む際の炎の状態を撮影するのだ。

 

 私はレラさんの斜め向かいで良い位置に座っていたのに、残念なことに、名前を呼ばれ、私の紙が火の中に投げられた時、ちょうど儀礼の順番がまわって来て、神にお神酒を捧げていた最中で、器を両手に持っていたので、自分の炎をきちんと撮影できなかった。

後でレラさんにそのことを言うと、「炎の証拠写真はなくても、あなたのは良かったから心配ない」と言ってもらえた。

 

 レラさんは、夫々の名前と親、住んでる所などが書かれた紙とイナオとの織りなす炎の状態で、その人の人生・運命を占い、読み取ることができる。病を患っている人で参加できない人でも、代わりの人がその人の氏名、住所などの情報を書いた紙を渡せば、レラさんが炎を見て、今までどうだったか、今後どうなるか、どうすれば良くなるかを占ってくれるのだ。スマホでぶれぶれで撮った写真でも、レラさんは炎を鋭く分析される。

 

 もし、もう一度平取に来ることがあれば、1泊ではなくせめて何か掃除などを手伝いながら3~4日間滞在したいと思った。